2017.02.09
日本橋の法律相談|東京高裁の高い壁!フレンドリー・ペアレント・ルール採用されず
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
去る平成29年1月26日,注目の判決が東京高等裁判所(以下「東京高裁」といいます。)にて下されました。
ある夫婦の離婚をめぐり,子の親権が争われていた裁判で,東京高裁(菊池洋一裁判長)は1月26日,妻を親権者と判断しました。一審の千葉家庭裁判所松戸支部は昨年3月,長女(当時8歳)と6年近くも会っていない夫に親権を認め,妻側が控訴していました。親権をめぐる裁判のあり方を変える可能性があるとして注目を集めていたのですが,二審では判断が覆りました。夫側は上告の意向を示しています。
長女(現在9歳)の親権を争っていたのは,40代の夫妻です。一審判決によりますと,2人は価値観の違いなどから,長女の誕生後,険悪な関係になったそうです。妻は平成22年年5月,当時2歳の長女を連れて実家へ戻ったのです。その後,夫と長女との間では,何度か面会や電話でのやり取りはあったが,平成23年春ころから途絶していました。
一審は離婚を認めましたが,親権については従来と異なる判断枠組みを採用しました。親権争いでは「継続性」を重視し,同居中の親に親権を認めることが通例だが,一審は夫が母子の面会交流を年間100日認めるなど,母親に対し「寛容性」の高い条件を提示したことなどを評価し,夫に親権を認めていたのです。この点が,わが国でも「フレンドリー・ペアレント・ルール」を採用する流れができるかもしれないとの評価を受けていました(当職も淡い期待を抱いていました。)。
しかし,東京高裁の判決において,菊池裁判長は,これまでの長女の監護者が妻であったことや,妻と夫で監護能力に差がないこと,子どもが母親と一緒に暮らしたいとの意思を示していることなどを踏まえ,「現在の監護養育環境を変更しなければならないような必要性があるとの事情が見当たらない」として,長女の親権者を妻とするのが相当と判断しました。
一審では夫側が提案していた年間100日の面会交流を評価していたが,二審では,長女の身体への負担や友人との交流などに支障が生じるおそれがあるとして,「必ずしも長女の健全な生育にとって利益になるとは限らない」とされました。
また,妻が別居の際に,長女を無断で連れて行ったことについて,判決では,「夫の意に反することは明らかだったが,長女の利益の観点からみて,妻が親権者にふさわしくないとは認めがたい」とされました。
当職は唸りました。「司法の壁」の高さをあらためて感じました。自分の意思に反して無断で連れて行かれれば「連れ去られた」かもしれませんが,実際に監護をしていた親とすれば,そのまま置いていくことは「置き去り」になります。同じ事実でも見る景色が違えばまったく別物となってしまうのです。
平成25年の第183回通常国会において,5月22日にハーグ条約の締結が承認され,6月12日に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(以下「実施法」といいます。)が成立しました。
条約及び実施法の承認・成立を受け,平成26年1月24日,わが国は,条約の署名,締結,公布にかかる閣議決定を行うとともに,条約に署名を行ったうえで,オランダ外務省に受諾書を寄託しました。この結果,日本について,ハーグ条約が同年4月1日に発効しました。しかし,いまだ法整備は途上ですし,ハーグ条約を精神を反映した実務運営もなされていません。
しかし,「それでも」と言い続けなければなりません。最後に当職の好きなデュマの『モンテ・クリスト伯』の最後の一節を引いて締めたいと思います。
「待て,しかして希望せよ!」