2017.07.14
フレンドリー・ペアレント・ルール適用されず!ーー最高裁,上告棄却す。
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
離婚後の子どもの親権をめぐり,「年間100日,母親が子どもと会えるようにする」と提案した父親を親権者とすべきかどうかが争われた離婚等請求訴訟の上告審について,父親の逆転敗訴とし,母親を親権者と認めた第二審・東京高等裁判所判決が確定したとのニュース報道が飛び込んできました。最高裁第二小法廷(鬼丸かおる裁判長)が,平成29年7月12日付けの決定において父親の上告を棄却したそうです。
第一審,第二審判決によりますと,40代の母親が平成22年,当時2歳の長女を連れて実家に戻り,別居を開始。父親は数回,長女と面会できたのですが,その後は夫婦間の対立が深まり,面会できなくなってしまいました。
昨年3月の第一審・千葉家庭裁判所松戸支部判決(平成28年3月29日)は,父親が家裁に提出した「長女と母親の面会交流を年間約100日確保する」とする計画と,母親の「父親との面会は月1回程度」とする意見を比較。「子が両親の愛情を受けて健全に育つには,父親を親権者にするのが相当」と判断しました。面会交流に寛容な点を重視し,子どもと別居中である夫を親権者とした判断は異例でした。いわゆる「フレンドリー・ペアレント・ルール」を適用した貴重な判決であると思いました。
しかし,今年1月の第二審・東京高裁判決(平成29年1月26日)は,面会交流は考慮要素の一つと指摘。「これまでの養育状況や子の現状,意思などを総合考慮すべきである」とし,母親を親権者とすべきであると結論づけていました。
●フレンドリー・ペアレント・ルールのおさらい
以前のブログにも解説したことがあるのですが,ここで「フレンドリー・ペアレント・ルール」のおさらいをしておきます。
離婚に際して同居親 (監護親)を決定する際には,
①元夫婦としての葛藤感情と切り離して別居親と子どもの面会交流に協力できるか
②子どもに別居親の存在を肯定的に伝えることができるか
③子どもが面会交流に消極的な場合に別居親との面会交流を子どもに働きかけることを同居親の責務と理解できているか
等が同居親としての適格性の判断基準とされる原則のことです。
この判断基準は “Friendly Parent Rule:フレンドリー・ペアレント・ルール”と呼ばれ,別居親と友好関係を保てる親を同居親決定の際に優先することを意味しています。
フレンドリー・ペアレント・ルールの訳語は,いまだ定まっていないようで,『友好的親条項』や『非監護親に対する寛容性の原則』などと訳されています。
離婚後の親権者・監護者の決定は,子の利益(民法819条6項)や福祉を基準として行われなければなりません。
しかし,父母共に子に対する強い愛情を有している場合には,何が子の利益であるかの判断は,さまざまな事情の総合判断によって決定されているのが実情です。
そして,近時,別居親と子の面会交渉を認めることができるか,別居親を信頼して寛容になれるか,元夫婦としての感情と切り離して,子に相手の存在を肯定的に伝えることができるかという点が,親権の適格性の判断基準の一つとなりつつあることが注目されているのです。
わが国でも,東京高決平 15 年 1 月 20 日家月 56 巻4号127頁で採用され,その後も判断基準のひとつの要件とされています(東京家裁八王子支部平成 21 年 1 月 22日審判家月 61 巻 11 号 87 頁)。
離婚後の親子の交流を促進させる親を適格な親とみなす考えといえますが,ハーグ条約批准後も民法改正後(民法766条)もなかなか重視されていないのが現状です。今回の最高裁決定も現状打破とはなりませんでした。しかし,「待て。しかして希望せよ」の心のままに前進していくほかありません。