2022.02.02
新型コロナウイルス感染症の事務は,法定受託事務か?自治事務か?
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
新型コロナウイルス感染症がまん延し,マスメディアは連日「過去最多」を報道しています。とくに変異株オミクロン株の流行もあり,依然終息の見通しが立っていない状況です。そのため多くの分野において先行きが不透明な状態です。ワクチンのブースター接種も始まり地方自治体が取り組むべき問題の局面も徐々に移行しています。
そもそも,地方自治体の目的は「住民の福祉の増進」(地方自治法1条の2第1項)です。そのため,各地方自治体は,新型コロナウイルス感染症に対し,多くの政策を実施してきましたし,現在も実施しています。
今回は,地方自治体が取り組む新型コロナウイルス感染症の対応について解説します。
- 新型コロナウイルス感染症の事務は,法定受託事務か?自治事務か?
新型コロナウイルス感染症に対応する法的根拠は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」といいます。)です。特措法は新型インフルエンザ等感染症に対する対策強化を図ることにより,国民の生命や健康を保護し,生活や経済への影響を最小にすることを目的としています。もちろん,現在,我が国に襲来している新型コロナウイルス感染症にも対応しています。
特措法74条には「この法律の規定により地方公共団体が処理することとされている事務は,地方自治法第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務とする」と規定されています。すなわち,新型コロナウイルス感染症の対応は「法定受託事務」なのです。
- 法定受託事務と自治事務の定義
ここにいいます「法定受託事務」とは「国が本来果たすべき役割に係る事務であって,国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの」(地方自治法2条9項)と定義されています。
他方,自治事務とは「地方公共団体の処理する事務のうち,法定受託事務を除いたもの」(同法8項)です。
法定受託事務なので,国が率先して方針等を決めていく必要があります(果たして現政権はどうでしょうか。)。しかし,特措法は知事に営業自粛の要請(31条の6)など多くの権限を与えています。そのため一見すると自治事務という錯覚に陥る場面があります。法定受託事務の趣旨からは,国がリーダーシップを発揮すべきと思うのですが,知事にもリーダーシップを認めているというイメージです。
- 「臨時特別給付金」の給付事務は「自治事務」なのに!?
また,国民一人当たり10万円が給付された「特別定額給付金」の給付事務は,実は,市区町村の「自治事務」なのです。
昨年末すったもんだがあった,「子育て世代への臨時特別給付金」の支給については,当初の政府の計画では、まず現金で5万円を支給した後,残りの5万円分はクーポンでの支給を基本とする想定でした。その後の議論で,クーポンではなく現金での支給が容認された結果,市区町村ごとに3つの方式がある形になっています。
そもそも「臨時特別給付金」の給付事務は「自治事務」なのですから,どうして上記のような混乱が生じたのかよく分からない点はあります。係る混乱が生じた背景には,当初,政府は「児童手当」の枠組みを利用しようとしたからということがあると思います。「児童手当」の給付事務は「法定受託事務」になります。既存の制度を利用できることからメリットも大きいと安直に考えたのかもしれませんが,かえって柔軟さを欠くことになり,手続も煩雑になるという愚を犯したことになります。このことはすぐに理解できたはずなのですが,「きほんのき」をおろそかにすると混乱を招くわけです。
- ワクチン接種事務は「自治事務」
3回目のブースター接種が始まったワクチンの接種事務は「法定受託事務」です。新型コロナウイルス感染症の対応がケースにより主体が異なってくるわけです。そのため複雑化します。一見するとよく分からない状況ですが,国民からすれば,国であろうが,都道府県であろうが,市区町村であろうが,確実に新型コロナウイルス感染症の対策が実施されればいいのではないかと考えてしまいます。
さらに,保健所を設置しているか否かで,新型コロナウイルス感染症の具体的な対応も異なってきます。保健所は,都道府県,政令指定都市,中核市,特別区が設置しています(地域保健法第5条)。このような法的な限界により,地方自治体により新型コロナウイルス感染症の対応に差が出つつあるわけです。
しかし,そのような中でも,各地方自治体は創意工夫を凝らして,新型コロナウイルス感染症を終息させるべく,多様な政策(施策・事業を含みます。)を展開しているというわけです。