ケースの紹介

2016.10.07

度重なる嘘、妻の実家も巻き込む「借金夫」に限界…なぜ裁判で離婚するのは難しい?

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。 

 

 夫がひそかに借金をしていた。夫婦で協力して返済をしていくこともありますが、借金を作った経緯や内容によっては、「もう、この人とは暮らせない」と決断することも考えられそうです。弁護士ドットコムの法律相談には、「夫の借金が発覚した! 離婚したい」という相談が数多く、寄せられています。

 A子さんの夫は、ギャンブルで借金を200万円も作っていました。結婚前にも同じように借金を作り、「もう2度としない」との約束で、結婚した経緯があります。結婚後わずか1年でその約束が破られたことから、子どもが生まれたばかりですが、「嘘をついて、自分を守ろうとする夫に、家族としての意味もわからない。限界です」と、離婚を考えています。

 結婚14年目で、夫の借金を知ったB子さんは「ずっとだまされ続けていたと思うと、離婚したくなりました」といいます。「子どもは3人、借金は総額350万円ほど。使ったのはパチンコ。返せなくなり、闇金に手を出したことで発覚しました」。

 また、借金夫たちは妻の実家を巻き込むこともあります。

 借金夫と結婚した娘を想う父親からはこんな相談が寄せられました。「娘の提出が借金を作ってしまいました。3年前に200万円ほど用立てて、もう借金をしないと約束をしたのにもかかわらず。また懲りずに180万円の借金が発覚したので、娘は『もう一緒に生活はできない』と言っています。離婚は認められるのでしょうか」。

 借金夫との離婚は認められるのでしょうか? 濵門俊也弁護士に詳細な解説をしていただきました。

 

A. 「夫の借金」だけを理由に離婚することは難しい。

 

 配偶者の借金が、夫婦間のトラブルを生むことはよくあります。しかし、単に「夫に借金があるから」という理由だけでは、離婚は認められません。

 もっとも、ご相談者が旦那さんに「借金だらけの生活は嫌だ。離婚したい」と切り出し、旦那さんが合意した場合は、離婚することができます。しかし、夫婦二人で話し合っても結論が出ない場合は、家庭裁判所に離婚の調停を申し立てる必要があります。

 調停とは、二名の調停委員と裁判官からなる調停委員会が、第三者として当事者の間に入り、紛争解決に向けて話し合う手続です。調停離婚では、とくに離婚の理由を制限していません。今回のケースのように、夫の借金を理由とする申立てもできます。

 ただし、離婚調停は、あくまでも話合いでの解決を目的とした場でしかありません。話し合いがまとまらなければ、調停が不成立となります。旦那さんが離婚することを拒否し続けた場合、最終的には、訴訟手続で決着を付けることになります。

 訴訟では、離婚をしたい理由が、民法が定める離婚原因、つまり、「不貞行為」「悪意の遺棄」「三年以上の生死不明」「回復の見込みのない強度の精神病」「その他婚姻を継続し難い重大事由」の、いずれかにあたれば、裁判所に離婚を認めてもらえます。

 では、夫に借金があるというご相談者の事情は、民法で定める離婚原因に含まれるのでしょうか?

 夫の借金を理由とする場合は、通常「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして離婚訴訟に臨みます。しかし、過去の裁判例をみても、配偶者の借金のみを理由に離婚を認めた事案はありません。

 多くは、借金を原因として夫婦生活が破綻するに至ったことを重要な判断材料としているように思います。例えば、夫がギャンブルで借金まみれになり、家に生活費を一銭も入れず、妻が夫への愛情を喪失して夫婦関係が修復不能になっているような場合です。

 しかし、単なる「夫の借金」だけでは、夫婦関係が破綻しているとはいえず、離婚は認められないと考えられます。

 とはいえ、離婚ができず、借金の返済に追われる毎日はとても辛いでしょう。どうしても借金を返していくことが難しくなった場合は、まず弁護士に相談していただければと思います。債権者と話し合って返済条件をゆるやかにするなどの交渉ができますし、最後の手段として、自己破産も可能です。

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