離婚・男女問題コラム

2017.12.19

無戸籍者問題に関する神戸地裁判決

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

●嫡出否認を夫のみに認める民法規定の合憲性を争った事件の第一審判決

 生まれた子との父子関係を否定する「嫡出の否認」を「夫」にのみ認める民法の規定(民法774条,同775条等)は,男女平等を定めた日本国憲法14条等に違反するとして,兵庫県の60代の女性と長女,孫2人が国を相手に計220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が平成29年11月29日,神戸地方裁判所で下されました。冨田一彦裁判長は「規定は合憲」と述べ,請求を棄却しました。原告側は控訴する方針だそうです。

 原告側代理人の弁護士によると,嫡出否認規定の違憲性を争う訴訟は全国で初めてだそうです。
 冨田裁判長は,夫にのみ否認権を認めることは「生物学上と法律上の父子関係を一致させる要請と,早期に父子関係を確定し身分関係の法的安定を保持する要請との妥協点で,合理性がある」と述べました。
判決によりますと,女性は約30年前,元夫の暴力を理由に別居し,離婚成立前に別の男性との間に長女を出産しました。しかし,男性を父とする出生届は「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する」とする民法772条1項の規定により不受理となりました。
 女性は元夫との接触を恐れ,嫡出否認の訴え(民法775条)を提起してもらうことを断念しました。結局長女とその子ども2人は昨年まで無戸籍でした。訴訟では「妻や子が訴えを起こせれば無戸籍にならなかった」と主張していたそうです。
 冨田裁判長は,原告のようなケースについて,「訴訟手続上の個人情報の秘匿や,夫の暴力から保護する法整備などが必要」と言及しています。こうした対策がなければ,妻に嫡出否認の提訴権を認めても行使は困難なことがあると指摘しました。

●無戸籍者問題

 出生届が提出されていない無戸籍者が平成29年8月10日時点で700人いることが,法務省の集計で分かっています。
 このうち,民法772条が定める「嫡出の推定」によって夫(夫が虐待を加えており,それから逃れているようなケース)や元夫(離婚直後に別の男性との間で懐胎したようなケース)の子とするのを避けるため,母親があえて届け出ないケースが約7割にも上っているそうです。無戸籍者は把握できていない例が多く,潜在的に1万人を超えるとの見方もあり,法務省は無戸籍状態の解消について法務局などに相談するよう呼び掛けています。
 法務省が統計を取り始めた平成26年以降に把握した無戸籍者の累計は1426人です。判明後に戸籍を取得した人もいるのですが,先ほどの無戸籍者700人のうち131人は成人しているそうです。また,700人という数字は,平成27年3月時点の567人よりも増えています。
 無戸籍状態を解消するには,家庭裁判所の調停などで元夫との間に父子関係がないことを確認したり,血縁上の父に父子関係を認めてもらったりしたうえで,戸籍を取得する必要があります。家庭裁判所での手続には精神的,金銭的な負担が大きく,ためらう人も多いのかもしれませんが,少なくとも金銭的な負担は法テラスの民事法律扶助制度を利用するなどして対応できます。精神的負担等を少しでも軽減すべく我ら弁護士がサポートいたします。

●無戸籍者問題にお困りのかたは,当職弁護士濵門俊也までご相談ください。

 無戸籍の方が母の元夫の戸籍に記載されることを求めない場合の手続は,つぎのようなものがあります。

 まず,戸籍事務の担当者に,嫡出の推定が及ばないということがはっきり分かれば,嫡出否認の手続によることなく,戸籍上元夫の子とはしないという取扱いが可能です。そのような例としては,まず,離婚後300日以内に出生した子であっても,医師の作成した証明書により,婚姻中に懐胎した子ではないこと(=離婚後に懐胎したこと)を直接証明することができる場合があります。

 このほかにも,裁判手続において嫡出の推定が及ばない事情が証明されれば,嫡出否認の手続によることなく元夫との父子関係を争うことが可能とされています。その結果,元夫との間に父子関係がないことが明らかになれば,戸籍上も元夫の子として取り扱わないことが可能です。どのような場合に嫡出推定が及ばない事情があるといえるかについて,最高裁判所は,「妻が子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合」と判示しており,一般的には,母の懐胎時に外観上婚姻の実態がない場合をいうと解されています。裁判手続によらなければならないのは,このような事情があるか否かについて,市区町村の戸籍窓口で調査し認定することは困難なためです。

 裁判手続の具体的な方法としては,①元夫を相手として,父子関係がないことの確認を求める親子関係不存在確認の手続,②血縁上の父を相手として,子であると認めることを求める強制認知の手続があります。これらの方法であれば,元夫からしかできない嫡出否認の手続と異なり,無戸籍の方又は母が自ら行うことができます。

初回無料相談
受け付けております!

相談に来ていただいた方の信頼を獲得できるように様子見や出し惜しみをせず、
最初から全力投球します。セカンドオピニオンとしてのご利用も歓迎ですので遠慮なくお声がけください。